川崎が全国に誇る「かわさきマイスター」は現在67名認定されている。そのうち16名のマイスターが集結し、一流の技の実演披露・製品の展示を行う『かわさきマイスター匠展(たくみてん)』が8月30日、31日に多摩区総合庁舎1階アトリウムで開かれた。
“表具師の仕事で最も経験と技術が要求される『修復』の技能を発揮する”と紹介されている表具師若林近男さんが実演する30日に足を運んだ。
実演の合間に表具師の仕事についてお聞きした。
「表具師(経師(きょうじ)ともいう)というとすぐに襖、障子の張り替えをする人と思ってしまうが、表具師の仕事は布や紙を糊で何枚も貼り合わせ加湿と乾燥を繰り返してモノを作り挙げていく仕事です。痛んだ掛け軸や屏風、額などを修復し、新たに鑑賞・保存できるようにする表装。書や日本画を掛け軸や額、屏風などに仕上げる。また、襖や障子・屏風などの建築関係の新調や修理、張り替えなどの多岐にわたっています」と仕事の幅の広さを説明された。
「美術品を扱うこともあるため美術に関する知識や材料の選定、配色を考える際の感覚も大切です。特に修復の仕事は何重にも裏打ちされたものを一枚一枚慎重にはがして本紙(裏打ちする前の元の書など)に戻していかなければならず細心の注意と器用さが必要です。掛け軸を作るときや修復の時の裂地(きれじ※)の選び方などは表具師の美的感覚が問われます。このような仕事ができる職人は80歳代となっており60歳代はほとんどいません」と素材から時代背景を学べることも教えていただいた。
屏風の仕立ての一部が展示されていたが、下張には昔の和紙の登記簿謄本が使われており、たたいても破れないほど丈夫であった。このような和紙は現在ほとんどないとのこと。
「生活様式が洋風化して最近の住宅から表具の姿は薄くなってきていますが、壁面を飾るなど時代とともに変化しています」とも話された。
※裂地:特殊な紋織物の事。一文字・中回り・天地などの種類がある。
当日、午前は東生田小学校5年生約90名が社会の授業で訪れていた。それぞれのマイスターのコーナーをグループ順に訪れ実演と話を熱心にきいていた。
若林さんの実演は襖(ふすま)紙を使った封筒作り。小学生に紙の折り方、折った時にできるはみ出した部分の処理の仕方など丁寧に教えていた。
他のマイスターは、家具技能士の昼川さんが鉋(かんな)で板を削った時に出る鉋くずの薄さをティッシュペーパーと比べたり、削り跡がつるつるなのを触らせて確かめたりしていた。寝具技能士の内海さんは梅型や亀型の座布団、ミニかい巻などが展示されている中で座布団製作の実演をしていた。神社仏閣銅板屋根工事の関戸さん、美容師の三上さん、洋裁・介護服の栗田さんも実演と製品の展示をしていた。
手書友禅の石渡さん、食品加工士の畑さん、印刷技能士の流石さん、洋菓子士の仲亀さんは各々の製品を展示していた。
匠(若林さん)の手
紋織物の例
内海さんとミニかい巻
表具師について関心があったので匠展に足を運んだ。裏打ちの実演が見られるのではと期待して行ったのですが、見られなくて少し残念です。
生活様式が洋風化して「床の間」がある家が少なくなってきています。表具は床の間のだけでなく、壁面を飾るものとして発展しつつあるといわれています。時代にあった表具の発展が楽しみです。