
- 宿河原用水の船島鉄橋付近で撮影
半日で授業が終わる土曜日のできごと が、いまも鮮明に思い出せる。 小学校5年生の春、席を並べた子と仲良くなり始め「肝試しにこない?」と誘われた。 親にせがんで買ってもらった自転車 で、遠乗りをしたくなっていた頃だった。 「行く!」と二つ返事をした。 ランドセルを玄関に投げ出すなり、母に「友達と遊びに行く」と言ってコッペパン にジャムをぬった弁当を作ってもらい、待ち合わせの場所にとんでいった。
友達から離されないようにペダルを懸命にこいで、多摩川の土手を登戸に向にかった。 しばらくして顔がほてってきたが、体の汗が川風で冷やされて気持ちよかった。
秘密の場所は“宿河原”駅近くの、南武線の鉄橋の下を流れる川だ。 橋の下の道は人が一人通れ、子供がくぐれるほどの高さだ。 上を見るとレールと枕木が丸見えだ。 その小さな空間に体をかがめて貨物列車が来るのをじっと待つのだ。
カーブしたレールの先に列車があらわれるのが路肩からみえた。 いよいよ来るぞと目と目で合図をした。
轟音(ごうおん)がせまってきた。 両手で耳をふさいだが地鳴り音は容赦しない。 目も開けていられない。 早く列車が通り過ぎてほしい! もうだめだ。 腰が抜けたように両足が震えた。 いつの間にか列車が走り去っていた。
ふと我にかえると、背中が汗でびっしょりだった。
一言も話さず自転車のところへ戻った。
「バイバイ」と声をかけ、家路についた。